9.11.11

パトリック・モディアノ『失われた時のカフェで』、中勘助『銀の匙』、丸山健二『夏の流れ 初期作品集』

パトリック・モディアノ『失われた時のカフェで』

原題は« Dans le café de la jeunesse perdue »、「過ぎにし青春のカフェで」。
流し読みした自分も悪いが、訳がひどかった。
「僕らはアレ、その小道のいっとう先にいた」(p.100)とあるのを、
フランス語のわからない読者に 小道=アレ(allée) と解せるだろうか?
適切な訳で読みたい。


中勘助『銀の匙』

実は未読だったので、読んだ。
夏目漱石に見出だされた作家だが、漱石らしさはない。
散文詩の文体で、すべてが瑞々しい幼少の記憶を物語る。
ついぞ江戸だった明治の東京の風俗も見えて、面白い。


丸山健二『夏の流れ 丸山健二初期作品集

「夏の流れ」以外の未読作品を読んだ。
市民の日常生活の危うさを描いた諸作品は、
ところどころに思わせぶりなところはあれ、
無駄のない簡潔な文体が美しい。

譬喩的な構成があまりない。最初期は特にそうだ。
これが、文壇からの距離ということなのかもしれないし、
丸山健二らしさの原点なのかもしれない。

譬喩的な構成というのは、日本の戦後文学に昭和的な厭らしさだ。
因果応報、勧善懲悪的な作者の意図が、どうしても透けて見えることだ。
人間の都合に話が丸め込まれるのは、現実の不条理だけで充分だ。
小説家はそれを超えるような論理展開やリズムを提示するべき、と個人的に思う。

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