23.2.18

藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義』、團藤重光・伊東乾『反骨のコツ』

藻谷浩介、NHK広島取材班『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』

過疎地が自ら智慧を絞り、放擲されていた資源を活用することで、
市場へ流出していた貨幣流通を地域内にとどめ、
結果としてスマートグリッド的な地産地消経済が回りつつある、という。
実例として、木屑によるバイオマス発電を行ったり、
商品にならなかった農作物を、地域通貨によって地域の施設へ回したり。
地域振興という都市部による上から目線の思考ではなく、
主体的に考えて行動する、という責任感と自信がある。
どこまでも細かく分業し、市場と貨幣により抽象化される、という都市の疲弊がない。

NHK取材班による事例のみではなく、
藻谷氏による経済学的な裏づけがなされていて、説得力がある。
何より、自らを労働力と貨幣の交換する、という無機質な世界から逃れ、
人が集まって生きている、という地域圏がセーフティネットとして存在する。
そこには次世代へのヒントどころか答えがあるような気がしてならない。

「角川oneテーマ21」新書。
初版は2013年7月なので、東日本大震災から半年後。


團藤重光、伊東乾・編『反骨のコツ』

10年ほど前、日経ビジネスオンラインに掲載された両者の対談を読んだ記憶がある。
團藤重光氏が長く東京大の教員で、
元・最高裁判事なのは知っていたが、
敗戦後、刑事訴訟法を起案したというのは知らなかった。
私は法律学を訓詁学とみなしていたが、
氏は、訓詁学以前の哲学や思考から、法律に関わってきた、ということだ。
日本国憲法や種々の基本的な法律が施行される時代、
法の運用は判例によってではなく、
GHQの意向をうかがいながらも、新時代の日本への展望が息づいていた。
その時代の述懐は、興味深かった。
陽明学の知行合一に貫かれて、最高裁判事としても多数に与しない、
その生き方は、痛快だし、勇気づけられるものがある。

対談なので、話題は揺れ動くが、多くは死刑について。
アイヒマン的な凡庸さの罪が、
死刑に立ち会う教誨師に通底する、という指摘や、
1948年の最高裁死刑合憲判決が、
GHQへの忖度を含み将来への展望を語る、という紹介があって、興味深かった。

タイトルが内容と遊離していること、ときおり伊東氏の独壇場になっていること、
がやや残念だった。

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