14.9.11

倉橋由美子『パルタイ 紅葉狩り』、イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』

○倉橋由美子『パルタイ 紅葉狩り 倉橋由美子短篇小説集』

デビュー作「パルタイ」ほか、初期のものを中心に編んだ短篇集。
作品には良い意味で現実感がない。
抒情を排したアンチリアリズムの文体が光る。
そういった意味で、村上龍『限りなく透明に近いブルー』を思い出した。
第19回群像新人文学賞受賞時の銓衡委員も異口同音に選評に述べている。
「最も糜爛した部分を、悔恨も悲哀もなく描く」(井上光晴)
「いやらしそうでいやらしさをおぼえさせぬということは、かえって清潔である」(小川信夫)
「熱い材料を処理するその手際は冷静といふか寧ろ冷たい」(福永武彦)

両者ともに、非常にセンセーショナルなものを題材にしていて、
そういったソフト面での刺戟も読んでいてあるのだが、
実はそれ以上に作品に込められているのは、文体というハード面である。
倉橋由美子のほうが、その傾向は強く感じられた。
「囚人」「蘆生の夢」は反復に閉ざされる物語であるし、
「霊魂」「紅葉狩り」は恍惚とした先の死がきらびやかに描かれている。


○イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』

「我らの祖先」三部作の三つ目。
主人公は鎧を身に着けた空虚、つまり存在しない騎士。
『まっぷたつの子爵』『木のぼり男爵』とは異なり、
主人公に語りのスポットが置かれているわけではない。
そういった意味で、登場人物のどれも作り込まれていて、
物語の進行も面白かった。

最後、物語の主題として「存在」という理由の問いかけが、
急に読者に投げかけられてくる。
そして、「希求」という一回答が。
最後、語り手さえも擱筆して修道院を出てしまった後、
読者に残された大いなる問いかけだ。

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