日経ドラッグインフォメーション東日本大震災取材班の編著。
被災地に赴き、あるいは被災地域の一員として
被災者の医療支援を行った薬剤師、医師への取材をまとめたもの。
取材はおおむね三月末から四月中旬に行われ、初版は六月。
薬剤師の知人に借りて読める。
自分はこの本を、非常事態への対応の実例集として読んだ。
所感をメモにまとめておく。
・現場の判断
現場の判断を迅速かつ適切に下すことが求められる。
その前提として、実務への精通と柔軟な対応が不可欠だ。
先発薬や市販薬での代替を医師に提案する場面は、異口同音に語られている。
・専門化と非常事態
派遣医療チームの一員として薬剤師が活躍すると、一般的には想像されない。
事実、阪神大震災時にはそうではなかったらしい。
医薬分業が進んで、医師と患者を投薬面で結ぶ調剤薬局の役割が明確になったためか。
薬剤師ではなく「調剤薬局の役割」書いたのは、
物資の制限された下で手持ちをうまく組み合わせるという「薬剤師の活躍」が
本書タイトルの「要」の謂いの一つだからだ
(もう一つは、医療従事者としてのフットワークだろう)。
この、分業化による的確で迅速な処方は、震災支援に益した一例だろう。
ただ、医師・看護師の処方知識への副作用も垣間見えたように読める箇所もあった。
・サービスのあり方
医療とは、専門性を駆使して個々人にサービスを与える業種だ。
このサービスの非常時の身動きは、
他の広義のサービス業の改良のヒントになりうるように思った。
付加価値創出のため、サービス業全体が
個々へのきめ細やかさに対応してゆく流れにあるからだ。
例えば大学運営において、教育職員・事務職員ともに、
教職員という大枠の中で所属の部署・委員会ごとの専門性をつど身につける。
悪くいえば付け焼き刃的な知識での対応の限界を超えるには、
ここ数年よく耳にする事務職員の専門化は欠かせないだろう。
27.12.11
マルク・ブロック『封建社会』
マルク・ブロックの主要著作に挙げられる、アナール学派歴史学の代表的論文。
邦訳は1977年、みすず書房より刊行。
マルク・ブロックの名は、2009年に再合併したストラスブールの3大学のうち、
人文科学を包する一、Université Marc Blochに記念されていた。
西欧の封建社会の成立過程から論じ、
封建社会下での社会関係(個人間、階級間、社会制度)、
そして最後に、封建制の構成への影響、という構成。
西欧の、蛮族時代からカロリング・ルネサンスを経て、
イタリア・ルネサンス前までの中世を、社会制度から縦断する形で分析する。
その間、ローマとメロヴィング朝の帝国時代の安定期の残滓、
ノルマン・コンケスト、レコンキスタといった異民族の流入、
都市ブルジョアの形成、カトリック教会という聖俗の二権力の鬩ぎあいが、
織物のように時代に編み込まれている。
特に、デーン朝、ノルマン朝の制服王朝によって破壊され、
フランスやドイツのような政治的地域差を失ったイギリスが、
大陸に対して独自に封建制を進展させ、
例えば後にcommon lawへ法体系を進ませたという事例は、初めて知った。
「フランスの国王たちは、フランスを統一したというよりは寄せ集めたのである。イングランドには一つのマグナ・カルタがあった。しかしフランスにおいては、[…]、ベリー人、ニヴェルネー人たちにそれぞれ証書があり、──イングランドにおいては一つの議会があるのに、フランスにおいては「全国三部会」よりもいつも頻繁に開かれ、結局はより活発に動いていたのは「地方三部会」であり、──イングランドにおいてはわずかな地域的な例外はあったが一つの「普遍法」(common law)があり、フランスにおいてはきわめて雑多な地域的慣習法が存在していた」(下 p.142)
一般的“制度”について、生成と慣習化、その後の定着という過程の、
詳細な一例となっていて、非常に興味深かった。
また、西欧の封建制と日本の封建制が、ところどころで比較されている。
西欧では主人と家士は契約関係なのに対し、日本では一方的な服従関係であり、
西欧では主従の網の目の頂点に国王がいる一方で、日本では将軍がいる
(制度的頂点の天皇の政治制度においては、将軍を境に二重体制)など、
比較は試論として面白い。
読んだ結論としては、封建制とは、
貨幣の非流通による雇傭システム確立の難しさと、
一度あった中央権力の弱体化が惹き起こした、
なし崩し的な群雄割拠の支配体制ではないか。
そうすることで、洋の東西を問わず、封建制の一般化ができる。
もちろん、本書でもフランス、ドイツ、イギリス、イタリアの例の相違が
随所に引かれているように、
その背景や歴史の流れによって、若干あるいは大きな違いが現れる。
その差異を一般化しない精緻さが、読んでいて面白い。
邦訳は1977年、みすず書房より刊行。
マルク・ブロックの名は、2009年に再合併したストラスブールの3大学のうち、
人文科学を包する一、Université Marc Blochに記念されていた。
西欧の封建社会の成立過程から論じ、
封建社会下での社会関係(個人間、階級間、社会制度)、
そして最後に、封建制の構成への影響、という構成。
西欧の、蛮族時代からカロリング・ルネサンスを経て、
イタリア・ルネサンス前までの中世を、社会制度から縦断する形で分析する。
その間、ローマとメロヴィング朝の帝国時代の安定期の残滓、
ノルマン・コンケスト、レコンキスタといった異民族の流入、
都市ブルジョアの形成、カトリック教会という聖俗の二権力の鬩ぎあいが、
織物のように時代に編み込まれている。
特に、デーン朝、ノルマン朝の制服王朝によって破壊され、
フランスやドイツのような政治的地域差を失ったイギリスが、
大陸に対して独自に封建制を進展させ、
例えば後にcommon lawへ法体系を進ませたという事例は、初めて知った。
「フランスの国王たちは、フランスを統一したというよりは寄せ集めたのである。イングランドには一つのマグナ・カルタがあった。しかしフランスにおいては、[…]、ベリー人、ニヴェルネー人たちにそれぞれ証書があり、──イングランドにおいては一つの議会があるのに、フランスにおいては「全国三部会」よりもいつも頻繁に開かれ、結局はより活発に動いていたのは「地方三部会」であり、──イングランドにおいてはわずかな地域的な例外はあったが一つの「普遍法」(common law)があり、フランスにおいてはきわめて雑多な地域的慣習法が存在していた」(下 p.142)
一般的“制度”について、生成と慣習化、その後の定着という過程の、
詳細な一例となっていて、非常に興味深かった。
また、西欧の封建制と日本の封建制が、ところどころで比較されている。
西欧では主人と家士は契約関係なのに対し、日本では一方的な服従関係であり、
西欧では主従の網の目の頂点に国王がいる一方で、日本では将軍がいる
(制度的頂点の天皇の政治制度においては、将軍を境に二重体制)など、
比較は試論として面白い。
読んだ結論としては、封建制とは、
貨幣の非流通による雇傭システム確立の難しさと、
一度あった中央権力の弱体化が惹き起こした、
なし崩し的な群雄割拠の支配体制ではないか。
そうすることで、洋の東西を問わず、封建制の一般化ができる。
もちろん、本書でもフランス、ドイツ、イギリス、イタリアの例の相違が
随所に引かれているように、
その背景や歴史の流れによって、若干あるいは大きな違いが現れる。
その差異を一般化しない精緻さが、読んでいて面白い。
ゲレオン・ヴェツェル『エル・ブリの秘密』
カタルーニャの創作レストランEl Bulliと、
オーナーシェフのフェラン・アドリアの、
新メニュー開発からレストラン開店までを追ったドキュメンタリー映画。
シネスイッチ銀座にて鑑賞。
創作料理のメニュー開発の定石がどのようなものなのか知らないが、
“意外性”と“驚き”に主眼を置き、薬品調合のようにメニューを開発するさまは、
料理人のそれというよりも、科学者の実験室を覗くようだ。
食材ごとの特徴、調法、組合せの適性を組み合わせてゆくデータ至上主義は、
リンネの分類法を彷彿とさせ、食材ごとの文化や風土といった背景を感じさせない。
オブラートをラビオリの皮に使ったり、サンドイッチのバンズにメレンゲを使う。
色の調和を重んじ食材の形を保つというような、料理の一般的な形式ではない。
人文科学の人はおそらく、この一連のメニューを「食材の脱構築」と表現するだろう。
映画の最後のスタッフロール前に、35あるメニューの写真が映される。
http://www.elbulli-movie.jp/menu/
あまりに種実類が多いことが気になった。
非日常の創作料理だから栄養バランスは気にしないにしても、これでは。
オーナーシェフのフェラン・アドリアの、
新メニュー開発からレストラン開店までを追ったドキュメンタリー映画。
シネスイッチ銀座にて鑑賞。
創作料理のメニュー開発の定石がどのようなものなのか知らないが、
“意外性”と“驚き”に主眼を置き、薬品調合のようにメニューを開発するさまは、
料理人のそれというよりも、科学者の実験室を覗くようだ。
食材ごとの特徴、調法、組合せの適性を組み合わせてゆくデータ至上主義は、
リンネの分類法を彷彿とさせ、食材ごとの文化や風土といった背景を感じさせない。
オブラートをラビオリの皮に使ったり、サンドイッチのバンズにメレンゲを使う。
色の調和を重んじ食材の形を保つというような、料理の一般的な形式ではない。
人文科学の人はおそらく、この一連のメニューを「食材の脱構築」と表現するだろう。
映画の最後のスタッフロール前に、35あるメニューの写真が映される。
http://www.elbulli-movie.jp/menu/
あまりに種実類が多いことが気になった。
非日常の創作料理だから栄養バランスは気にしないにしても、これでは。
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