27.12.11

マルク・ブロック『封建社会』

マルク・ブロックの主要著作に挙げられる、アナール学派歴史学の代表的論文。
邦訳は1977年、みすず書房より刊行。
マルク・ブロックの名は、2009年に再合併したストラスブールの3大学のうち、
人文科学を包する一、Université Marc Blochに記念されていた。

西欧の封建社会の成立過程から論じ、
封建社会下での社会関係(個人間、階級間、社会制度)、
そして最後に、封建制の構成への影響、という構成。
西欧の、蛮族時代からカロリング・ルネサンスを経て、
イタリア・ルネサンス前までの中世を、社会制度から縦断する形で分析する。
その間、ローマとメロヴィング朝の帝国時代の安定期の残滓、
ノルマン・コンケスト、レコンキスタといった異民族の流入、
都市ブルジョアの形成、カトリック教会という聖俗の二権力の鬩ぎあいが、
織物のように時代に編み込まれている。
特に、デーン朝、ノルマン朝の制服王朝によって破壊され、
フランスやドイツのような政治的地域差を失ったイギリスが、
大陸に対して独自に封建制を進展させ、
例えば後にcommon lawへ法体系を進ませたという事例は、初めて知った。
「フランスの国王たちは、フランスを統一したというよりは寄せ集めたのである。イングランドには一つのマグナ・カルタがあった。しかしフランスにおいては、[…]、ベリー人、ニヴェルネー人たちにそれぞれ証書があり、──イングランドにおいては一つの議会があるのに、フランスにおいては「全国三部会」よりもいつも頻繁に開かれ、結局はより活発に動いていたのは「地方三部会」であり、──イングランドにおいてはわずかな地域的な例外はあったが一つの「普遍法」(common law)があり、フランスにおいてはきわめて雑多な地域的慣習法が存在していた」(下 p.142)

一般的“制度”について、生成と慣習化、その後の定着という過程の、
詳細な一例となっていて、非常に興味深かった。
また、西欧の封建制と日本の封建制が、ところどころで比較されている。
西欧では主人と家士は契約関係なのに対し、日本では一方的な服従関係であり、
西欧では主従の網の目の頂点に国王がいる一方で、日本では将軍がいる
(制度的頂点の天皇の政治制度においては、将軍を境に二重体制)など、
比較は試論として面白い。

読んだ結論としては、封建制とは、
貨幣の非流通による雇傭システム確立の難しさと、
一度あった中央権力の弱体化が惹き起こした、
なし崩し的な群雄割拠の支配体制ではないか。
そうすることで、洋の東西を問わず、封建制の一般化ができる。
もちろん、本書でもフランス、ドイツ、イギリス、イタリアの例の相違が
随所に引かれているように、
その背景や歴史の流れによって、若干あるいは大きな違いが現れる。
その差異を一般化しない精緻さが、読んでいて面白い。

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