11.10.17

莫言『転生夢現』

中央公論新社刊。
吉田富夫による臨場感のある口語っぽい訳が読みやすかった。

1950年から2000年までの中国の一村の物語。
主人公の西門鬧が冤罪の恨みとともにロバ、牛、豚、犬、猿を輪廻しながら、
文化大革命から改革開放までの歴史に翻弄される一族を俯瞰する。

壮大な群像劇であり、まさに歴史だった。
瀕死の牛が飼い主の土地まで歩んでから死ぬシーンや、
二匹の豚が観衆の歌う真ん中で頂上を争って戦うシーンや、
いくつもの情景が心に残った。
常に時代々々の大義と情が人を突き動かし、
登場人物たちは出世と左遷を経めぐり、立場をぐるぐる上下させながら、
自らの役を命がけで演じる。
人民公社、党内の地位、情愛、……。
語り手の回想だけが歴史を達観するが、
進行中の歴史は最重要な今でしかない。
そして、今はいずれ無価値に打ち棄てられるか、時によって和解されてゆく。
人間への賛歌なのか、永劫回帰の哀しみなのか。
歴史の暴力と無情を肌身で語る物語は、いずれをも超えてひたすら語り続ける。

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