2.1.18

手塚治虫『奇子』、田端信太郎『MEDIA MAKERS』、荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ』、藤原智美『文は一行目から書かなくていい』

手塚治虫『奇子』

手塚治虫にとって戦後という現代は、
都市と田舎、民主化と封建、カネと正義の対立を抱えた高度経済成長であり、
どこか禍々しく歪んだ過ち、だったに違いない。
その戦後日本の象徴として、主人公はGHQスパイとして戦後に生きて帰り、
朝鮮戦争特需を境にヤクザとして金ピカな生涯を送る。
読後感の裏づけとして、昔に読んだかすかな記憶から浮かんだのが、
『ネオ・ファウスト』『きりひと讃歌』『グリンゴ』だった。

kindle版で読んだ。iPhoneの画面で漫画は読みにくかった。

田端信太郎『MEDIA MAKERS──社会が動く「影響力」の正体』

メディア業界を知り尽くした著者ならではの観点で、面白い内容だった。
特に、消費者の具体的なペルソナを描いているという業界バナシは興味深かった。
ただ、メディアの信頼の担い手が企業・組織から個人へ移行してゆく、
という主張は、やや疑問を抱いた。
結局、メディアが信じるに足りるかどうかは、是々非々だからであり、
企業・組織か個人かという責任の有限無限の違いを、
権威を感じる消費者は、強く意識していないように思われるからだ。

メディア業界の人々の文章はおしなべて似ている、
そういう印象がはっきりしたように思われる。
繰り返し、言い換えが多い。紋切り型で結論を飾る。
よく言えば、噛んで含めるよう。悪く言えば、冗漫。
加えて、小馬鹿にしたような口の悪さや刺々しさがある。
読ませるためにメリハリをつけるためのテクニックが、
瞬間的、刹那的、テレビ的であるように思われる。
言葉が発せられたとたんに萎びる消費メディアの業界の性質ゆえか。
事実や語りという本質を措いていかに惹きつけるか、の世界だからか。

kindle版。元は2012年宣伝会議刊行。

荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ』

東日本大震災直後に出回った流言・デマが多く紹介されていて、
twitterによって多くの情報拡散をして(しまって)いた記憶が蘇った。
著者は、情報需要に供給が追いついていない状況が流言・デマを生む一因とし、
流言・デマを一つずつ挙げては公式情報を以て打ち消してゆく。

が、当時、東京電力をはじめとして政府やメディアといった、
大枠の既存制度、権威そのものが、あまりに大きく揺らいでいた。
つまり、公式情報や報道は、流言・デマの火を完全に消しえただろうか。
実際、当時のように報道への疑問は、いまだに我々に蟠っているように思える。

本書は地震発生から2ヶ月後の2011年5月に、反デマの"まとめ"として上梓された。
が、"検証"と題して今なお販売されている以上は、
"正しい公式発表"と"誤った流言・デマ"の二項対立を越えて、
その構造そのものの深層を掘り下げてほしかった。

kindle版。元は光文社新書。

藤原智美『文は一行目から書かなくていい 検索、コピペ時代の文章術』

文章術として網羅的かつ細やかで、良著に思われた。
文章の本質は「ウソ」です。ウソという表現にびっくりした人は、それを演出という言葉に置きかえてみてください。
という書き出しからまず実践的。
具体的な読み手を意識せよという指摘は、
上の『MEDIA MAKER』のペルソナに通じる。

kindle版で、元はプレジデント社刊。

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