21.2.12

ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』

池澤夏樹個人編集世界文学全集に収められた池内紀の新訳。
こんなに面白い本を長らく放置していたとは。

しばしば寓話の名で語られる作品だ。
たいていはその第一の証拠に、自分の意志で成長を止めた3歳の主人公が引かれるが、
むしろ、その幼い目に語られる即物的なグロテスクさが、寓話らしさの核だろう。
15ページほどの小章ごとに一つのイメージがあり、それをめぐって物語は進行する。
それをめぐって、ねじが廻転し、出来事が繰り広げられ、人が死に、
しかしイメージは物語の陰翳を帯びて生々しく、ときに血まみれになりながら残る。
これがグラスの小説家としての武器、寓意的文体だ。

小説の内容は、まぁ読めばわかる。
ひとたび通読すれば、小章の一つずつが短篇として取り出せるだろう。
どれも語り口が流麗で読み飽きない。

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