カルロス・フエンテス、オクタビオ・パス、ミゲル・アンヘル・アストゥリアス。
南米文学の巨匠五人の手になる集英社文庫版作品集。
文学の多様性がここまで全面に押し出された、
良い意味で統一感のない短篇集も珍しかろう。短篇、詩、掌篇。リアリスム、神話、シュルレアリスム、……。
パチェーコ「砂漠の戦い」は自伝的な短篇。
ラテンアメリカ社会革命前の頽落的な風潮の色濃い中下層社会で、
友人の母親に恋をして破れた少年時代を回顧する。
大人の背中を見て育った子供たちの小社会の残酷さと生きるしたたかさにも、
貧富の差が友人関係を引き裂き口を噤ませるやるせなさにも、
言いようのない辛さがある。
バルガス=リョサ「子犬たち」は、一人の金持ちの子供が、
そうではないわんぱくな子供たちに次第に溶け込み、
そして抜け出せないまま子供として惨めに歳をとってしまう、という話。
自分ひとりだけ思春期直前の精神年齢にとどまる焦り、そして屈折。
終盤に決定的な仲違いをしてから、時はめぐり、
少年たちは中年の小市民に落ち着いてしまっている。
この物語内時間の取り返しのつかない加速と漂う喪失感がよかった。
いくつもの科白が挿入されていて一文の長い文体は、
言葉が言動に追いつかない子供の感じを出している。
アストゥリアス「グアテマラ伝説集」は、伝説のような浮世離れした論理が
きらめく譬喩とともに原色の風景を語る。まるで謂いが摑めない。
グアテマラの、あるいは中米の、アジアとはまた違った雑多感に
少しでも馴染みがあれば、おそらく少しは
意味なり雰囲気なりに同意できるのかもしれないが。
結局解せなかったことがもったいない、そう思ってページを閉じた。
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