生田武志『釜ヶ崎から 貧困と野宿の日本』
ちくま文庫版。日雇い労働者の街としての末期から、生活保護の街、ホームレスの街への変貌へ、
実際に釜ヶ崎での活動を通しての生々しいルポルタージュだった。
貧困がなぜ悪なのか、説得力をもって語っている。
釜ヶ崎へ行くと、そこに広がる光景が衝撃的であるために、
何らかの腑に落ちるようなものを感じることができる。
想像を絶するがゆえに、そこに人間がいて社会が、尊厳があるという現実が、
考えられずに済ませられるようになってしまっている。
特異ながら社会があって人が生きているという事実とその背景が見えないほどに、
どこから手をつけてよいかわからないほどにこんがらがっている。
その中へ入り込み、考えるためには、このような取材文はありがたい。
釜ヶ崎から少し視点を変えて、野宿者の実像にも取材している。
また、補章として、野宿者の高齢化・若年化や、女性、子連れの現実が語られている。
これは評論ではない。問題系だ。
言葉は想像を超える実態を淡々と述べ伝える。この圧倒的な問い。
制度ではなく身近なものとして、福祉とは何か、何ができるのか、考えさせられる。
それはおそらく、あり得た自分への救いの手でもあるはずだ。
松田美佐『うわさとは何か ネットで変容する「最も古いメディア」』
中公新書版。うわさというものの生態学。
結局、伝達という機能で捉えると、うわさはメディアの一形態でしかなく、
うわさを真偽込みで定義づけすることはできない、ということのようだ。
その曖昧さは、ネットで補強されている。
もし本書がより最近に書かれていたら、偽ニュースをその極北として挙げただろう。
東浩紀『弱いつながり 検索ワードを探す旅』
幻冬社刊(幻冬社……久しぶりに読む出版社だ)。中高生向けの軽い自己啓発含みのエッセイとして読むべきか。
内容は面白かった。検索窓という鏡の中に囚われた自我から、いかに抜け出るか。
そのために、場所を変えてノイズを導入することを薦めている。
(もしかすると、そのようなノイズ生成が、
検索機能そのものに組み込まれるかもしれないが)
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