泉鏡花「高野聖」
高僧が煩悩をお上品に丸出しにして出くわしたお伽話、というか。
耽美的だが、その耽美がけっしてお上品でなく、
籠る自然の草いきれなところがよかった。
石川淳「佳人」
読みにくいし、そう読んでいて面白くもなかった。
だが、思い返すと、一読では駄目だな、と思う、そんなブンガク。
単なる記録っぽいけど、実際はかなり、
文学や藝術というものに対してメタなものがあるように思った。
1930年代の文学ってのは、なんでこう、
グロいものをちょびっと裏に秘めてるんだろう。
それが時代閉塞ってやつなんだろうか。
…………じゃあ、現代って………?
明日は荒川区に、来月は福岡県に行く。
11.4.09
大阪には戻らない
僕は18年間、そこで実に多くを学んだ。街は僕の心にしっかりと根を下ろし、想い出の殆んどはそこに結びついている。しかし大学に入った春にこの街を離れた時、僕は心の底からホッとした。
(村上春樹『風の歌を聴け』)
ほんのときどきだけど、村上春樹の『風の歌を聴け』を読み返したくなる。
それは故郷の大阪を遠く離れた仙台の大学に入ってからのことで、
読んでいるときの気分は、ありもしない過去を
代筆で仕上げてもらった回想録に浸っているようだ。
風が心地よいので、窓を明けっ放しにして、
畳に寝転んで、がらんとした家にいる。
狭い1Kに二人で棲んでいたことも、そういえばあった。
近づいてくる出国日の別れを世界の終りのように思いながら、何度も涙した。
でも、もちろん世界は終わらずに、
いろいろなことを巻き込みながら、淡々と時間が過ぎた。
自分は帰国し、やがて独りぼっちになって仙台を離れた。
今は2DKに独りで棲んでいて、だらだらと終わらない本の整理をしている。
過去にあったさまざまなことも、ほとんど忘れてしまった。
(村上春樹『風の歌を聴け』)
ほんのときどきだけど、村上春樹の『風の歌を聴け』を読み返したくなる。
それは故郷の大阪を遠く離れた仙台の大学に入ってからのことで、
読んでいるときの気分は、ありもしない過去を
代筆で仕上げてもらった回想録に浸っているようだ。
風が心地よいので、窓を明けっ放しにして、
畳に寝転んで、がらんとした家にいる。
狭い1Kに二人で棲んでいたことも、そういえばあった。
近づいてくる出国日の別れを世界の終りのように思いながら、何度も涙した。
でも、もちろん世界は終わらずに、
いろいろなことを巻き込みながら、淡々と時間が過ぎた。
自分は帰国し、やがて独りぼっちになって仙台を離れた。
今は2DKに独りで棲んでいて、だらだらと終わらない本の整理をしている。
過去にあったさまざまなことも、ほとんど忘れてしまった。
6.4.09
岩井俊二『PiCNiC』
岩井俊二って、乾いた日常を切り取って見せてくれる印象があったけど、
映像をもっぱら魅せる感じは、むしろ『式日』っぽかった(監督違うけど)。
映画というよりイメージビデオだった。
音楽と、Charaの声と、光と影と、黒と白(と血)との。
その境目を隔てる塀を歩き歩いて、紡がれていく。
5.4.09
桜に想うことごと
路沿いのそこここに、あるいはずらりと、桜が満開になっている。
はっきり云って見慣れてしまったので、綺麗と感じない。
夕陽に照らされて赫く輝きつつ、裏側に影を帯びた
鰯雲の群れのほうが、よっぽど綺麗だ。
汚らしく色彩の散らかった街に桜が咲いたところで
ごてごてしさが増すだけなので、
桜は人家のない山で観るべきだ。
夏前のまだ濃い緑の一面に混じって、桜が見えると、
それこそ、心からタナトスを感じるだろう。
坂口安吾のように、強盗や戦争の栄えを見出だすだろう。
私の場合は、馬鹿騒ぎを誘発する厄介なハレなどごめんだ、とばかり、
世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし、と
在原業平の一歌が浮かんだ。
そして、坂の上から遠近に咲く花を見下ろして、
その毒々しさを厭わしく感じた。
3.4.09
島田雅彦『僕は模造人間』
島田雅彦の小説をこれまでに三作ほど読んだが、そのいずれでも、
遠出が、起承転結の転として機能しているのは、偶然だろうか。
ただ、それよりも重要に思われるのは、彼の作品の隠れテーマとして、
肉体と精神の主従関係みたいなものが、常につきまとっている。
『溺れる市民』でもそうだった記憶があるし、
今回読んだ『僕は模造人間』では、まさにそうである。
その二項対立の接点に性欲が置かれていて、
そして、特異なのだろうが、その性欲の処理としての自慰が、
そのまんまとしての自慰のほかに、一人で思考が連綿と続くところの理屈、
としても描かれているところが、この作品では面白かった。
最後、意識と肉体は完全に切り離される。
こうすると、結末で示されるように、もはや悲劇は存在しない。
そもそも、悲劇も喜劇も、まったく同一の題材に対して両立する。
悲劇か喜劇か分けるのは、視点が題材に対して主観的か客観的かだ。
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