ヴィム・ヴェンダース『パリ、テキサス』
マジックミラー越しのトラヴィスとジェーンのやりとりは、完璧。
構図の妙はもちろんのこと、
ジェーンの恰好や口紅の原色のあざやぎの場末の安っぽさ、
トラヴィスの押し殺したような無表情と声、
淡々と語られる真実。
絵画として脳裡に焼きつく場面だった。
トラヴィスの放浪と失った母親という労苦もどこ吹く風といったように
無邪気なハンターが、最後に母親のジェーンに正面からそっと近づいて
腰に抱きつく姿は、柔らかい。
柔らかで暖かい場面が印象的なのは、トラヴィスの放浪する沙漠や
自動車でひた走るテキサスの荒野の隙間でのひとときだからなのかもしれない。
風をかき鳴らすようなライ・クーダーの音楽の挿入も素晴らしい。
松岡政則『草の人』
何年か前に読んだ『金田君の宝物』がずっと胸の中にあったので、手に取った同著者の詩集。
題名にあるとおり草が主題だが、正直、さほど青臭く煙るような詩は多くなかった。
反=自然として対比させられた「記号」や「都市」「街」が、
あまり実感としてではなく概念のままごろんと転がされていて、
それほど言葉から沁み出して感じられなかった。
(こんな云い方は僭越とはわかっているけど)
すごく言葉を興すのに苦労して、出た思いを削って磨いて
やっと縦に字を連ねている、そんな気がした。
つるつるに研磨されて、一読にはするっと柔らかく、毒を残さない気がした。
もちろん謂いは毒だけれど、言葉そのものは毛羽立っていない。
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