24.11.10

市川段治郎・市川春猿『夢十夜』(朗読)

11月23日、渋谷のセルリアンタワー地下の能楽堂にて。
出演は市川段治郎と市川春猿、新内剛士が三味線。
建物全体の埃ひとつない立ち居といい、
能楽堂から入口の桟すべての木が正目なのといい、
渋谷らしくない重厚さがあった。

夏目漱石『夢十夜』は第四話あたりまでという
なんともぶざまな状況だったから、
このような形で"読了"できてよかった。
第五夜あたりまでは内田百閒のような幻想的な寓話だったが、
次第に、床屋や戦争の話が出てきて、そちらも好かった。
にしても、やはり役者の朗読だからか、情景や描写がありありと頭に浮かぶ。
幻想的な寓話だから、街や家のごちゃごちゃした背景に
煩わされず、心身の動きのみを追うことができるからなのかもしれないが。
漱石の文体の描写の的確さも、もちろんそれを一番底から支える。
あまり朗読によって読むことに慣れず、内容も頭に入らないと思っていたから、
この会に参列できて、本当に良かった。

舞台の上で、葛桶に腰掛けてただ読むばかりではなく、
花道を振り返ったり、二人すれ違ったりと、
それも朗読内容を豊かに表現していた。
綺麗な声はもちろん、礼のときの首筋のなめらかな動きまで、
春猿の女形の居住まいは徹底して綺麗だった。

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夕刻、足の向くままに原宿の明治神宮に行った。
新嘗祭の贄(にえ)が各都道府県ごとに並び、
近郊の農業組合からの野菜が飾ってあった。
「なんという土人の国に住んでいるのか」という浅田彰の言葉を思い出しつつ眺めた。

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