25.11.10

塚本邦雄『王朝百首』

「百人一首に秀歌なし」との挑戦的な文言とともに、
塚本の美学の撰んだ百首がきらめく。
「定家百首」とはまた違ったアンソロジーとして、
春夏秋冬花鳥風月を愛でる一巡として素晴らしい材であるとともに、
日本語文学の表現技法の結晶のかずかずであり、
また、もちろん和歌の勉強にもなるといえばなる。

「移香の身にしむばかりちぎるとて扇の風の行方たづねむ」(定家)
というあまりに官能的な、それでいて粘着せず上下句の隙に揺らぎを持つ歌から、
「おぼつかな何しに来つらむ紅葉見に霧のかくせる山のふもとに」(小大君)
といった、穂村弘のような口語現代短歌っぽいのまで、果ては、
「あひ見てもちぢに砕くるたましひのおぼつかなさを思いおこせよ」(藤原元真)
と、恋の身の震えるような金言まで、種々を収める。

最低限の註釈と訳が付くことが多いので、
短歌を味わう初学者である自分にも読みやすかった。
また、歌を愛でる塚本邦雄の言葉そのものも端正で美しい。
批評もまた文学作品である以上、この著作は味わうに申し分ない。
あとがきに謳われた和歌の鑑賞法も幽玄だ。


講談社文芸文庫は隠れた名作揃いだが、本作もそれに漏れない。
誕生月のリクエストでこの本を贈ってくだすった方に多謝。

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