19.4.09

コンスタン「赤い手帖」、李纓『靖国 YASUKUNI』

・コンスタン「赤い手帖」

『アドルフ』のあの精緻な文体を求めて読んだが、
小説として書かれたわけではなく
どちらかというと日記なので、
期待ほどではなかったが、内容に次第に惹かれた。
特に、父がどういう存在であったかが興味深い。
絶対者のように精神の上に君臨し、
どれだけ好き放題に振る舞おうとも
決して父に直接背くことはしない、考えもできない。
『アドルフ』で、父がデウス・エクス・マキナのように
黒幕のような影を落としていることは、
こういうことだったのか、と思った。
というか、コンスタンって、こんな放蕩しときながら
大成するって、すごいな。


・李纓『靖国 YASUKUNI』

よく云われたような「偏り」を、自分はさほど感じなかった。
しゃちほこばって参拝してる軍服姿の老人たちの映像が長いし、
靖国刀鍛冶への取材態度もきちんとしている。
むしろ右翼は、これに対抗して溜飲の下るような映画でも
作れば良かったのに。
そして左翼も文句をつけようと思えばできたのでは。

出演の菅原龍憲さんが云っていたように、
靖国神社の合祀の考え方は
「戦死者は死後も国のものだから、合祀は取り消さない」
という非常に明確なもの。
だが、その一刀両断の態度というのは小回りが利かず、
だからこそ、合祀を望まない遺族や、
「日本人」として合祀されている台湾人遺族は
どうしようもないのだと。

そういう、際の部分の曖昧さが見えるのは、
星条旗を片手に小泉靖国参拝支持をするアメリカ人の場面。
初めは感激して友好的に握手したり
ビラ配布を手伝う日本人の周囲ばかりだった。
同盟国だからと握手したり、靖国がいいって話で同調したり。
だが、他の右翼が文句を付け始めて、
それに周囲は一斉になびいて、結局そのアメリカ人を追い出した。
こういう大衆心理的なものが、国粋というロマン主義の本髄だと思う。

同様の際の部分は、終盤にも出てきて、
それは国歌斉唱の場に殴り込みをかけた青年が駆逐される場面。
おじさんがどこまでもついてきて
「中国帰れ!」とひたすら怒号するのだが、
実際は青年は日本人だった。
靖国は日本人で靖国反対は中国・韓国、
という非常にわかりやすく短絡な思考。
それがまかり通るあの聖なる境内では
そもそも国際社会なんて堕落だ、と
本気で考えているかもしれない。

去年だったか、国会で問題となったのを端緒に
右翼が脅しをかけてあまり上演されなかった映画。
その旨は、確かフランスに住んでいた時分に
フランス誌でもちょっと記事になっていた。
日本の右翼が映画上演妨害、みたいな感じで。
右翼って「自国を誇れないような恥ずべき国は日本だけだ」
みたいに云うけど、
そんなに外の目が気になるなら、
そんな偏狭っぽさを外国に報道される方が
よっぽど恥だ、と感じたのを憶えている。

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