31.12.09

2009年総括

今年は、別れと別れと出会いと別れの年だった。
どの年もそうだろうけれど、
そうであることを強く感じたという意味で、
あえてこのように統括させてもらう。


今年読んだ本は、作品数で数えて60。
もっとも印象深かった文学作品は、……決めがたい。
文学体験は、場所の経験に近い。
住んだ街の喧騒、赴いた公園の意匠、過ぎた田園の風景は
一列に並べて較べるにはあまりに特異すぎる。
強いて一つ挙げるなら、塚本邦雄歌集だろうか。
観念を固定させる元凶のはずの言葉が
五七五七七の内枠とそこに表象される
固定観念を軽やかに打ち破る、
その鋭利さの余韻から未だ醒めやれずにいるから。
もっとも印象深かった評論・学術書は
山口昌男『道化の民俗学』
中心と周縁の媒介項について考えを閉塞させていた矢先の、
軽やかな回答にして新たな学究への出発点となったから。

最近は「裁く」という一見暴力的な論理性について
興味が湧いている。


今年観た映画は42本。
その半分ほどはどれも面白かった。
もっとも印象に残っているのは
市川準『トニー滝谷』
前者は、直線的で単色の寂しげなシーンを
スライドするカメラワークで淡々と処理してゆく、
そんな呆然とするような物悲しさに包まれて、
人生は喪失なんだなと改めて見せつけられる。
成瀬巳喜男『鰯雲』も好かった。

映画に限らず良い藝術作品は、
グロテスクな覚醒を日常へと
佳麗に滑り込ませるものでないといけない。
この当然の原則を些かでも突き進められたと
感ぜられる一年なら、その向かう先が何であれ、
自己満足できるのではないか。

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