今年は、別れと別れと出会いと別れの年だった。
どの年もそうだろうけれど、
そうであることを強く感じたという意味で、
あえてこのように統括させてもらう。
今年読んだ本は、作品数で数えて60。
もっとも印象深かった文学作品は、……決めがたい。
文学体験は、場所の経験に近い。
住んだ街の喧騒、赴いた公園の意匠、過ぎた田園の風景は
一列に並べて較べるにはあまりに特異すぎる。
強いて一つ挙げるなら、塚本邦雄歌集だろうか。
観念を固定させる元凶のはずの言葉が
五七五七七の内枠とそこに表象される
固定観念を軽やかに打ち破る、
その鋭利さの余韻から未だ醒めやれずにいるから。
もっとも印象深かった評論・学術書は
山口昌男『道化の民俗学』。
中心と周縁の媒介項について考えを閉塞させていた矢先の、
軽やかな回答にして新たな学究への出発点となったから。
最近は「裁く」という一見暴力的な論理性について
興味が湧いている。
今年観た映画は42本。
その半分ほどはどれも面白かった。
もっとも印象に残っているのは
市川準『トニー滝谷』。
前者は、直線的で単色の寂しげなシーンを
スライドするカメラワークで淡々と処理してゆく、
そんな呆然とするような物悲しさに包まれて、
人生は喪失なんだなと改めて見せつけられる。
成瀬巳喜男『鰯雲』も好かった。
映画に限らず良い藝術作品は、
グロテスクな覚醒を日常へと
佳麗に滑り込ませるものでないといけない。
この当然の原則を些かでも突き進められたと
感ぜられる一年なら、その向かう先が何であれ、
自己満足できるのではないか。
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