3.7.10

石川啄木『時代閉塞の現状・食うべき詩』

岩波文庫版。啄木の論評が時代順に編まれ、
彼の思想の変遷がよくわかる。
啄木がいかに愚直かつ鋭く、文学について、
そして時代について考えていたか、
非常に心打たれた。

まず、閉塞感に啄木自身が取り憑かれている。
浪漫主義は「弱い心の所産である」と知っていながら、
少年雑誌から懐かしさを覚えて自らを慰撫したり、
自然主義の虚無感に対抗しようとしつつ、
何を以て対抗できるか見出だせない。

しかし、「時代閉塞の現状」において、
啄木は自然主義=時代閉塞の原因を、制度の成熟と欠陥に見出だした。
制度が精密に閉じたときにこそ、欠陥は多く浮き彫りになる。
そこから目を逸らすために幸徳事件が喧伝されると云う国家の手続きから、
啄木は時代閉塞に立ち向かう糸口を発見した。

制度の成熟と時代閉塞は、世界史的にも歩みを同じくしている。
古くは、第二次産業革命が全土に及んだ後、ヴィクトリア朝の後期のイギリス。
日本では、明治維新の一段落した啄木の明治末のほか、
大正デモクラシー後の二次大戦前、そしてバブル後の現在。
近代以降に集中するのは、制度というものが
ネーションに敷衍されての時代閉塞だからだろう。

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