すべてをお見通しの存在として君臨していた浜村龍造が弱まり、
他の登場人物が輝き出すという、多極化してばらばらになりそうな設定、
これを一本にまとめあげる力を、神話というのだろう。
秋幸と浜村龍造の立場の違いと同一性が浮き彫りにされながら、
終わり=円環の始まり に向かって進んでゆく一本の筋だけでは、
この厚みにはならない。
路地の消失と再現、開発の波、新興宗教、そして他の若い勢力の擡頭、
これらがどれ一つとっても濃い謂いを有していることが、
この厚みと、『枯木灘』に較べて一見遅い進行だ。
『百年の孤独』にまで神話的文学を求めなくとも、
本作が現代に神話を、あまりに現実が生々しい神話を、現出させている。
ヒントがささくれのようにあちこちに飛び出していて
どう分析してもおもしろい、だから当然ながら再読したくなる。
0 件のコメント:
コメントを投稿