2.6.08

五月の旅行記3 マドリッド

19日

味気ないユースの朝食を無理に喉から腹に入れ、
今日向かう先は、と地図を開いた。
昨日、逆方向に出てしまい近づいていた王宮に行こうかと、
メトロに乗ってオペラ駅で降りる。
オペラの向こう側にひらけた広場の奥に見えた真っ白な建物は、
王宮というには小さすぎる気がしたし、
スペインというには白すぎるような気がした。
ルーヴルというよりオルセーという感じのコンパクトな感じが、
親密で心地よかった。
装飾もヴェルサイユのようなごてごて趣味ではなく、
部屋を移動するたびに変わる色調の、特に緑色には暖かさがあった。
かといって壮麗ではないというわけではなく、
ストラディヴァリウスが飾られていたりもした。
いまだ王国のスペインだが、王族が住んでいるようには思えなかった。
ということは、あの守衛たちは何を警備しているのだろう?

王宮の横にあるカテドラルは、アルムデナ大聖堂というらしい。
外観に違い、内装は現代的で興味深かった。
メッスの大聖堂といいパリのサクレ・クールといい
バルセロナのサグラダ・ファミリアといい、
かくもステンドグラスの色が澄んでいて美しいのは、
デザインなのか技術なのか。
中世風の絵があり、かと思えばルネサンス風の絵、
天井はポップアートや、キリスト教らしからぬ幾何学模様と、
一つ一つを見ると確かにごちゃ混ぜだが、
全体として不可思議に統一がなされているように感じた。
茨の冠をかぶり十字架を背負って苦しむキリストの像が、
自分としてはもっとも心を打った。

マヨール通りをソルへと向かい途中、
ムニュが9,50€のレストランがあったので入る。
内装がシックだったので量に覚悟をしたが、
ギャルソンはスペイン語の解らない我々に対し、
牛や羊の鳴きまねをしたりして懸命に料理を説明してくれ、
その料理もおいしかった。
ワインがボトルではなくグラス1杯だけだったので、
幸か不幸か、さして酔う羽目にも至らなかった。

長距離バスの時刻を調べるため、アトチャ駅に行くが、
レンフェ(スペイン国営鉄道網)駅しかなく、
もう一度地図を見ると、目的は隣の駅だった。
駅にはなんと中に小さな植物園と池があり、
その中を亀が何匹か泳いでいた。
せっかくすぐそばにソフィア王妃芸術センターがあるので、
バスは後回しにして入館する。
ダリの『大自慰者』『雨後の隔世遺伝の痕』など、
超有名な作品も多々あって、立ちっぱなしの脚の疲れさえなければ
いくらでも時の過ぎるに任せていたことだろう。
もちろん、目玉のピカソ『ゲルニカ』も、しっかりと観た。

センターを出て、メンデス・アルヴィロ駅からバスターミナルへ。
「オラリオ・ア・グラナダ、ポル・ファヴォーレ」という
正しいかどうかもわからない自称スペイン語で、
窓口でグラナダ行きの時刻表をもらう。
10時15分発のチケットを買い、
マドリッド最後の晩を美味しく締めくくるためソルに向かう。
「どん底」というゴーゴリな店名の日本料理店を探しつつ
見つからなかったときのために他のレストランも検討し、
ソルの南をさまよい歩く。
結局見つかった「どん底」は、やはり値が張る料金設定のため、
ムニュ10€の普通のレストランへ。
自分の頼んだ牛タンの煮込みも、友人の食した牛の脳みその揚げ物も、
これまでスペインで食べてきた料理の一、二を争う美味しさだった。
話も盛り上がり、会計を済ませたのが10時半過ぎ。
明日の出発もあるので、あまり乗り気ではなかったのだが、
昨日の夜にユースの受け付けて訊いておいたフラメンコの観られるカフェを探す。
11時までに見つからなかったら帰る、という自分の条件に対し、
友人は、尋常と遥かにかけ離れた方向感覚の鋭さを発揮して、
ものの20分もしないうちに、ほぼ最短ルートでカフェを見つけ出した。
30€少しを支払って入り、舞台前の席に通される。
踊り手たちはそう若くはなかったが、熟練が相当に映える踊りなのだろう。
歌い手の絶叫するような声の張り上げ方もよく、
まさにマドリッド最後の晩を飾るにふさわしい美しさだった。

ユースに帰ると、空きのベッドのうち1つに、おっさんが寝ていた。

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