19日
味気ないユースの朝食を無理に喉から腹に入れ、
今日向かう先は、と地図を開いた。
昨日、逆方向に出てしまい近づいていた王宮に行こうかと、
メトロに乗ってオペラ駅で降りる。
オペラの向こう側にひらけた広場の奥に見えた真っ白な建物は、
王宮というには小さすぎる気がしたし、
スペインというには白すぎるような気がした。
ルーヴルというよりオルセーという感じのコンパクトな感じが、
親密で心地よかった。
装飾もヴェルサイユのようなごてごて趣味ではなく、
部屋を移動するたびに変わる色調の、特に緑色には暖かさがあった。
かといって壮麗ではないというわけではなく、
ストラディヴァリウスが飾られていたりもした。
いまだ王国のスペインだが、王族が住んでいるようには思えなかった。
ということは、あの守衛たちは何を警備しているのだろう?
王宮の横にあるカテドラルは、アルムデナ大聖堂というらしい。
外観に違い、内装は現代的で興味深かった。
メッスの大聖堂といいパリのサクレ・クールといい
バルセロナのサグラダ・ファミリアといい、
かくもステンドグラスの色が澄んでいて美しいのは、
デザインなのか技術なのか。
中世風の絵があり、かと思えばルネサンス風の絵、
天井はポップアートや、キリスト教らしからぬ幾何学模様と、
一つ一つを見ると確かにごちゃ混ぜだが、
全体として不可思議に統一がなされているように感じた。
茨の冠をかぶり十字架を背負って苦しむキリストの像が、
自分としてはもっとも心を打った。
マヨール通りをソルへと向かい途中、
ムニュが9,50€のレストランがあったので入る。
内装がシックだったので量に覚悟をしたが、
ギャルソンはスペイン語の解らない我々に対し、
牛や羊の鳴きまねをしたりして懸命に料理を説明してくれ、
その料理もおいしかった。
ワインがボトルではなくグラス1杯だけだったので、
幸か不幸か、さして酔う羽目にも至らなかった。
長距離バスの時刻を調べるため、アトチャ駅に行くが、
レンフェ(スペイン国営鉄道網)駅しかなく、
もう一度地図を見ると、目的は隣の駅だった。
駅にはなんと中に小さな植物園と池があり、
その中を亀が何匹か泳いでいた。
せっかくすぐそばにソフィア王妃芸術センターがあるので、
バスは後回しにして入館する。
ダリの『大自慰者』『雨後の隔世遺伝の痕』など、
超有名な作品も多々あって、立ちっぱなしの脚の疲れさえなければ
いくらでも時の過ぎるに任せていたことだろう。
もちろん、目玉のピカソ『ゲルニカ』も、しっかりと観た。
センターを出て、メンデス・アルヴィロ駅からバスターミナルへ。
「オラリオ・ア・グラナダ、ポル・ファヴォーレ」という
正しいかどうかもわからない自称スペイン語で、
窓口でグラナダ行きの時刻表をもらう。
10時15分発のチケットを買い、
マドリッド最後の晩を美味しく締めくくるためソルに向かう。
「どん底」というゴーゴリな店名の日本料理店を探しつつ
見つからなかったときのために他のレストランも検討し、
ソルの南をさまよい歩く。
結局見つかった「どん底」は、やはり値が張る料金設定のため、
ムニュ10€の普通のレストランへ。
自分の頼んだ牛タンの煮込みも、友人の食した牛の脳みその揚げ物も、
これまでスペインで食べてきた料理の一、二を争う美味しさだった。
話も盛り上がり、会計を済ませたのが10時半過ぎ。
明日の出発もあるので、あまり乗り気ではなかったのだが、
昨日の夜にユースの受け付けて訊いておいたフラメンコの観られるカフェを探す。
11時までに見つからなかったら帰る、という自分の条件に対し、
友人は、尋常と遥かにかけ離れた方向感覚の鋭さを発揮して、
ものの20分もしないうちに、ほぼ最短ルートでカフェを見つけ出した。
30€少しを支払って入り、舞台前の席に通される。
踊り手たちはそう若くはなかったが、熟練が相当に映える踊りなのだろう。
歌い手の絶叫するような声の張り上げ方もよく、
まさにマドリッド最後の晩を飾るにふさわしい美しさだった。
ユースに帰ると、空きのベッドのうち1つに、おっさんが寝ていた。
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