1.6.08

五月の旅行記1 ルクセンブルク、マドリッド

17日

朝6時半、前日に買って作っておいたバゲットのサンドイッチを手に家を出た。
明けきらぬ朝の薄い靄の中をÉtoile Bourseへ向かい、トラムで駅へ。
コライユでメッスへと向かうが、途中で減速、
おかげで20分ほど到着が遅れ、ルクセンブルクへの乗り継ぎが一本ずれた。
ルクセンブルク駅はコルマール駅ほどかそれ以下の規模で、
一公国の陸路の玄関口とは思えない。
実際、車のナンバープレートの国表示は
Lが多いものの、F(フランス)もD(ドイツ)も少なくない。
ここから、フランクフルト郊外のハーン空港へのシャトルバスを探さねばならないが
バスの停留所めいたものが駅前広場さながらに広がり、
どこに目当ての発着口があるとも知れない。
バスの運転手に聞いて指した方角に行っても、それらしい表示は何もない。
他の数人の運転手や駅員や、揚げ句の果てにはホテルの受付にまで聞いて、
結局見つかったのは、偶然そのバスがバス停の隅に止まっていたからだった。

ルクセンブルクの公用語は三つ。ドイツ語、フランス語、そしてルクセンブルク語。
それはもちろん知っていたが、標示としてはフランス語が優勢のようだった。
店の看板やホテルは、フランス語がまずあり、ドイツ語が下に沿えられていた。
もっとも、バスの運転手同士はドイツ語かルクセンブルク語かで話していたし、
尋ねた運転手の一人はフランス語ができなかった。
道行く人の声を聞いても、フランス語はそう多くはなかった。

ルクセンブルクは今回の旅行の第一の目的地として、
何を観光するか少しは考えていた。
しかし、空港へ二時間もかかる(その上20€もする)シャトルバスのせいで
駅舎以外には何一つ観ることはできずに終わった。
窓の外の風景に目をやって、
ドイツの農村風景はフランスのそれとは微妙に違う、
とぼんやり考えつつ、少し眠った。

ハーン空港から、今晩泊まるユースホステルへの電話を試みた。
予約票に、午后五時以降の到着の際は要連絡、と読み取れるスペイン語があったからだ。
しかしドイツ語表記の公衆電話の操作は煩雑で、結局いいや、と諦めた。
さっさと手荷物検査を通過して、友人の通過を待つが、
えらく遅れて出てきた。
コンタクトレンズの保存液の容器が大きすぎるということで
詰め替えさせられていたらしい。
カールスルエでもボーヴェでもジローナでもストックホルムでも許可されていたのに、
なぜ今駄目なのかは釈然としなかった。
逆に、ボーヴェでは通過できず破棄された顔面洗浄剤は、今回は問題なくくぐり抜けた。
フランクフルト郊外で1,50€のホットドッグを食べるのもよかったが、
単にパンにフランクフルトソーセージが挟まっただけだったのでやめた。

午后三時から二時間の飛行の終わりでは、地表はすっかりスペインになっていた。
畑と森の交互がフランクフルトの地表で、砂地にまばらな木々がマドリッドだった。
格安航空会社とはいえ、マドリッドでは他航空会社と同じ大きな空港に到着した。
空港からバスではなくメトロで移動できるメリットは楽だったが、
言葉と文字がスペイン語になっていた。
綴りを見れば大意は取れるが、発音は大きく違う。
メトロで回数券を買い、ユースの最寄り駅へのルートを探す。
マドリッドのメトロは広く伸びていてややこしいものの
構内は清潔で新しく、車両はデザインがストラスブールのトラムに似ている。
古くて汚く、階段の多いパリのメトロとは比べ物にならない。

アルゲレス駅を出て、手許の地図を見ながらユースにたどり着く。
予約票を見せるが、案の定すでに五時を過ぎて予約は取り消されていた。
スペイン語しかできないおばちゃんは、それでも別の安宿を手配してくれ、
明日の朝に来るように云った。
その宿は、ユースから歩いて十分もかからない場所にあり、
何の変哲もない住宅のなりをしていた。
扉のブザーを鳴らし、自分の名前を云うと鍵が開いた。
シャワーと洗面所はあるがトイレは共同という一室に通され、
パスポートを見せて一人15€支払った。
昼に何も食べていない空腹を満たすべく、
荷物を置いて早速、マドリッドの街に繰り出した。
賑やかな人通りの中を、スペイン広場を抜けてソルに至る。
夕陽を受けたアブランテス宮殿の脇を抜け、
マイヨール広場への途中にレストランを見つけ、
観光客向けで英語メニューなどもあったが、空腹には堪えられずに入った。
店には豚のおそらく腿の肉がずらりと吊るしてあって、圧巻だった。
自称、ペルー出身で日本人の奥さんのいる店員がうるさかったが、
友人はイベリコ豚のハムのサンドイッチを、自分は揚げ物のセットを食す。
パンがカスカスでまずい上に別料金だった。

近くで賑やかな音楽が聞こえてきたが、
食べ終わるころにはもう終わったようだった。
マイヨール広場に行くと人だかりができていて、
ほどなくすると、巨大スクリーンに司会のような女性が映し出された。
広場に設えられた舞台でのオペラを映し出しているのだった。
スペイン語が解れば面白いのだろうが、人物たちの動きと音楽を楽しむしかない。
しばらく観た後、宿に戻った。
友人はさすがにハムのみのサンドイッチだけでは腹が満たされなかったのだろう、
自分がシャワーを浴びている間に、
中華料理屋でラーメンを食べてから帰ってきた。

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