20日
朝起きると、同室人のおっさんが2人に増えていた。
起こさぬよう身支度をして朝食を摂った。
5時間揺られ続けるバスで酔わぬように、
2人分弱の量を、美味しくないながらも胃に入れた。
メトロ6番の循環線は、急ぐ我々を意にも留めずにのんびりと運行し、
バスターミナルに着いたのは出発5分前だった。
バスの最前列と真ん中に二箇所備えつけられた液晶テレビで
映画が始まったが、スペイン語である上に声が聞こえないので、
退屈しのぎに即興のアテレコをしてみた。五分で飽きた。
窓から見る風景は、とにかく陽を反射してまぶしかった。
郊外のそこここで、大きな団地が建設されていた。
12時頃、鞄からチョコドーナツを出して食べた。
1時すぎには小休憩があり、何か食べたかったが
空腹というわけでもなかったのでやめておいた。
景色は次第に起伏を帯び、むき出しの黄色い丘の連なりに
低木が規則正しくどこまでも続いている。
あまりに規則正しいので、植林事業でもあったのかと考えたが、
そう考えるにはあまりにも広い。
また調べてみたい事項である。
グラナダに着いた15時半、さっそく次の目的地への切符を買うことに。
モロッコのフェズへの直行があり、なんと午前3時発の午后8時着。
ジブラルタル海峡に面した港町アルヘシラスから
フェリーでモロッコのタンジェに行き、
そこで現地の長距離バスを探すことにしていた我々は、
そもそも道程が休みなしでも17時間かかるとは知らなかった。
グラナダからアルヘシラスへのバスの始発は朝8時からで、
それに乗ってフェズに予定通り投宿できなくなることを危惧し、
たといその17時間のバスが90€以上もするとはいえ、
文句は云うまいと、思い切ってその高価なチケットを買った。
これで、グラナダの2泊は1泊になる。
友人の携帯電話に残ったクレジットでホテルに電話し、
とりあえず予約をドタキャンすることに。
旅全体への見通しがついたところで、
バスの窓口に併設された観光案内で地図をもらい、
見所を簡単に教えてもらった。
バスターミナルから市内へバスに乗り、グランヴィア1で下車。
そこから大聖堂の脇を抜けてホテルへ。
受付のおじさんは簡単なフランス語ができたので、
2泊を1泊に変更したい旨を云うと、
ネットカフェから予約サイトを通じて変更してほしいという。
取りあえず宿泊手続きのためパスポートを預けると、
おじさんはメモを取りはじめた。
部屋に荷物を置き、教えられたネットカフェから
予約の変更と、ついでにアルハンブラ宮殿の入場券のオンライン購入をした。
ホテルに戻るとおじさんは、まだ書いているからと、
パスポートを返してくれなかった。
30分経ってどうしてまだ終わってないんだ、と訝りつも、
予約の変更は完了し、キャンセル量も発生しなかったことに安堵した。
まだ五時過ぎで日没まで時間があったので、
アルバイシンという旧市街に行った。
丘の裾に位置し、細い迷路のような道を上ってゆく。
家はどれも飾りのない壁をしていて、
ときどきイスラム調の門があったりする。
アルバイシン地区の北には、小さな広場があって、
主に観光客がのんびりとしゃべっていた。
あまりにのんびりしていて、犬までが地べたに横臥して目を閉じていた。
谷を挟んで向かいにはアルハンブラ宮殿が森の中に建ち、
その遥か向こうにも山々の稜線が見え、とても景色がきれいだった。
細い道を行くため、路線バスも小型だったが、
それには乗らずに足で下りた。
広葉樹からヤシ、サボテンまで幅広い種類の植物が、
茶色屋根の連なりに映える、綺麗な街グラナダだった。
目抜き通りグランヴィアに戻り、歩いていると、
道に落ちているある物体を、友人が踏んだ。
口を指で左右にいっぱいに拡げながら「文庫」と云おうとすると
代わりに発音されてしまう、とある物体のことである。
日常から、その物体を踏んでしまうことに
異常なまでの恐れを感じている友人に、
たったいま起きてしまった事故のことを指摘すると、
彼は非常に悲しみ、犠牲となった靴との思い出を語りながら、
水たまりを見つけては熱心に浸し、噴水を見つけては洗っていた。
いろいろ歩いた末に良いレストランを見つけられず、
大聖堂近くで入ったレストランは観光客向けだった。
あまり美味しくないスープと揚げ物だったが、
パンとともに空腹は満たされた。
ホテルに戻ると、さすがにパスポートの写しは終わっていた。
シャワーはマドリッドの初日の部屋のように、
部屋の片隅に小さく仕切られたもので、なんとも入りづらかった。
部屋のベッドは残念なことにツインではなくダブルだったので、
寝ているときは掛蒲団の奪い合いだったらしく、
自分の無頓着な寝返りのせいで友人は寒い思いをしたようだった。
申し訳ない。
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