4.11.09

古井由吉『槿』

どうして、こんなに濃密で無駄のない散文が長編小説を書けるのかわからない。
文章が、こめかみに冴え渡り、あるときはねっとりと鼻腔に粘り着く。
この感覚。どこで感じ取って文章に写し取れるのか。

幻想曲が、幻想とつかずにたゆたいながら、しかし確かに耳には響いている、
とするとこの曲は幻想なのか何なのか、みたいな小説。
妖しい中年の男女関係、性、その駆け引きの、背筋の伸びるような大人っぽさ、
こういうのを読まされては、老いるのも悪くない、とすら思う。
危なっかしい、一つの小説としてばらばらに分解されてしまいそうなくらい
細部が妖艶に輝き、浮き沈みしながら連関しあい、形を保ってこぎ着けたような、
ええもんを読ませてもらった。

こういう女性と関わり合ってみたい。切に望む。

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