11.6.10

フアン・ルルフォ『燃える平原』

短篇集。
地の文、なんてものはほとんどなくて、
常に誰かの口調が物語を喋る。
それが二重鍵括弧になったり、どこからともなく別の声が割り入ったりして、
多重音声が物語を進める。
その技巧を駆使したのは『ペドロ・パラモ』で、
この短篇はその文体の編曲と云うか、萌芽を感じられる。
かくして得られる、土着が物語る、という独特の雰囲気は、
ラテンアメリカ文学のマジックリアリズムの鼻祖としてうべなるかな。

メキシコ革命頃の殺伐とした雰囲気にまず目がいくが、
国なんてない、村や集落のような共同体のみが人の生活圏だった時代が、
かなりなまなましく描かれているように思った。
だから、深沢七郎『楢山節考』を髣髴とさせたが、
そんなに上品ではなく、人はどんどん殺しあって死ぬし、
ムラっぽい縁の結びつきの美徳というより、
縁に雁字搦めになりながら蟻のように小さく逞しい生き様、という感じ。
これをもっと濃密に物語にしたのが、
後を継いだガルシア=マルケスだったりするんじゃないか。

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