4.6.10

丸谷才一『たった一人の反乱』

その一人は誰を指すのか、というより、
大衆が群れていながらもみんな一人一人で小さく勝手にやってる、
という感じの印象を受けた。
通産省の元キャリアで防衛庁への出向を断り
歳の離れたモデルの22歳と付き合ったあげく結婚した主人公もそうだし、
若くて血の気の多い写真家もそうだし、
何十年もひっそり女中をした後に袂を分かった女中もそうだし、
舅の助教授も、出戻りの義理の祖母も。

面白かった。波瀾万丈があり、それぞれの登場人物が生き生きとして。
物語、読み物、としてはね。
ただ、まぁ、至って真面目なんだよな。
婚外交渉にしろ通産省官僚の防衛庁出向を断るにしろ、
世に問いかけながらも吟味に手を抜かない手筈の良さというか。
そして、種々のエピソードが纏め上げられるキーワードが
市民と時計、なんだから、王道というか意外性のない学術書というか。
そこは良くも悪くも、昭和40年代の純文学長篇小説、という趣き。
福田章二が庄司薫名義として発表した処女作が、
いかに世に背を向けていると批判されたか、よくわかろうというもの。

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