27.6.10

リチャード・パワーズ『囚人のジレンマ』

前作と同じく、三部同時進行の構成となっている。
しかし、それらは意を翳めつつ一本には収斂しないところが、
前作との最大の違いであり、かつ、本書の難解さだろう。
ゲーム理論の基本モデルそのまんまのわかりやすいタイトルとは裏腹。

ウォルト・ディズニーの夢のある虚構の話が、一つの通気口となっている。
むしろ、それがないことには、病める父の過去を遡行することは出来ないし、
家族内での囚人のジレンマ状態が続いた。
そして、ディズニーの話における囚人のジレンマは、
日系人収容の閉塞を打ち砕くことぐらいしか現れていない。
そこに大きく打ち立てられるのは、
信頼しあうことの絶対的必要性という陽と、
その信頼が実は完全なる虚構だという陰。

そのことに気づくとともに父親を失った家族には、
囚人のジレンマ状態を打ち破った成果としての家庭的な暖かみが残る…?
なんか保守的だなぁ。
あんまり生産的な結末じゃない気がしてしまった。

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