福永信の第一短篇集。
もっともこちらは「90°版」で、元は特徴的なヨコ組。
文章が改行されずにページを跨いで延々と一行目を走り、
その果てでようやく二行目に、…というもの。
福永信の短篇はどれも不思議だ。
物語が進行しているのに、記述は表面をなぞるばかりで、
意味や背景や思考は語られない。
そして語りはときに符牒や暗示を孕むが、
それがどういった意味と因果を持つのかは、やっぱりわからない。
わけのわからないまま物語であるというだけの理由で
物語を抱えて、語る言葉を駆け抜けてゆく感覚。
書き下ろし短篇「五郎の五年間」は措いて、
ほかのどれもテーマとしては、擬態と偵察だろう。
そしてそれが、ある一者の立ち位置から書き始められるものの、
結局はほかの無数に紛れ、惑わされるようにしてわからなくなる。
文体自体がそうという、なんとも煙に巻かれたような読後感だ。
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