幸せな学校生活が、喜怒哀楽を伴うエピソードの羅列として綴られてゆく。
小説舞台の仕組みに行を費やすなんてことはない。
暮らす学校やコテージの描写、そこに満ちた会話や考えが、
ときに明らかにときに暗に、照らし出してゆく形。
その徹底でありながら、一つのSF的な世界が描かれているのだ。
SFはその世界の精度や問題を投げかける、
だがそれが小説である限り、その状況をどう懸命に生きるかだ。
世界を描く方法の中で一番やわらかい、と感じた。
徹頭徹尾が経験だから、頭ではなく心で追体験する。
制度への"人道的"疑問ではなく、ていねいに記憶された細部から、
そして、それを奪われてゆく淡々としたストーリーから、考えさせられる。
表題ともなっているNever let me goのシーンは、泣きたくなる。
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