7.11.08

『ボヌール・デ・ダム百貨店』

読了。この厚い小説を一気に読んだのは、久しぶりだ。

勝ち組、負け組、という嫌いな表現が似合うお話。
最後に勝負を制するのは、その両方を渡り歩いたシンデレラなのだけれど。
その意味でハッピーエンドなのだが、その裏で悲劇の数々があまりに多く渦巻いていて、
やがてはそのシンデレラも足を引っ張られるのではないか、と
ストーリーの今後も勘ぐってしまうような、薄っぺらいハッピーエンド。
経済学の根底意識には、資源の希少性と欲求の底なしの対立があるが、
消費産業が社会を呑み込んでゆく瞬間を捉えていて、面白かった。
もっとつまんない一般的な云い方をすれば、パラダイムがぐるっと回転する瞬間。

舞台はパリのオペラと証取を結ぶ通り。
今年のちょうど元日、コンコルドからマドレーヌ、オペラ、パリ証券取引所まで
延々と歩いたことがあるが、百貨店なんてなかった。
だから、サン=ラザール駅を降りてちょっと歩いたところの百貨店、ということで
オスマン通り沿いのプランタンかと思って読んでいた。
そうではなくて、すでに潰れた百貨店がモデルになっているらしい。
でも、あの静かな通り、BNPパリバの本店なんかがある今や高級住宅街で、
雰囲気もなんとなく分かっているので、とても楽しめた。
ジュヌヴィエーヴの葬列の向かうブランシュ通りなんて、
あぁ、あの細い坂を上っていったのか、とこっちまで悲しくなった。
実名登場のボン・マルシェが懐かしい。セーヴル・バビロン駅を降りてすぐです。

デパートという消費のスペクタクルのめくるめく描写が綺麗だし、楽しい。
色遣いの巧みさはすごい。特に終盤。
あとね、人が多すぎる。四千人以上の従業員、一日七万人の来客。
もちろんすべて描かないけれど、その人いきれ、おしゃべりの喧しさ、飛び交う噂、
買い物好きたちのすさまじい虚栄心、などなど。圧倒される。

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