31.12.10

是枝裕和『ワンダフルライフ』

人は死後に一週間かけて、人生から一つだけ思い出を選び、
その思い出だけを記憶に懐いて天国で永遠に暮らす。
人により長短はあれ、たった一つしか人生を記録できない。
死者たちは懸命に思い出を選び、悩み、あるいは選択を拒絶する。
この淡々とした進行は、心地よかった。

ただ、こういった設定を通じて人生を振り返るということで、
何が見えるのだろう。いや、何が見えなくなるのだろう。
設定そのものが、誰もがブログと回想録を残そうと
躍起になる現代に特有のものと感じた。
誰もが一つ以上、美しい思い出を持つ必要があるとするのは、
それだけ個が充足されている証である一方で、
第三次産業(サービス業)中心の消費社会のきらいが見え隠れして思えた。

思い出を再現した映像を通じて、その瞬間を呼び起こすという手間を経るのは、
記憶から余分を排し、美化するという、
記憶そのものの作用を踏んでいるように感じた。

0 件のコメント: