今年読んだ本は60作品、観た映画は44本。
とても決めにくいことだが、読んだ中で最も印象的だったのは、
リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』だろうか。
三本のストーリーの混じり合いの妙といい、
枝葉に散りばめられた知的な議論といい、
一つの作品に詰め込めるだけ詰め込んだだけあって、
読みごたえは申し分なかったし、オチも良かった。
東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』、
平野啓一郎『決壊』も素晴らしかった。
『クォンタム・ファミリーズ』は面白くて夢中に読めた。
SFを小説と区別する基準たる現実そのものが
情報化に飲まれてどろどろと変容している中で、
控えめながら倫理的な問いかけに思えた。
『決壊』は、あまりに酷い事件を巡っての小説だが、
単にいま起きていないだけというほど現実味を帯びて迫った。
映画では、一つに絞ることは難しい。
トム・ティクヴァ『ラン・ローラ・ラン』と
セルジュ・ブルギニヨン『シベールの日曜日』が良かった。
『ラン・ローラ・ラン』は、不可逆でリニアな時間軸に抗おうとする
試みが新鮮だった(『メメント』もそうだが)し、
アニメを混ぜ込んだ作りも新しかった。
実験作ながら、テンポの良さが心地よい。
『シベールの日曜日』は、シベールの愛くるしさもさることながら、
画面の構成や台詞の細部が作り込まれていたように思う。
極言するに、カットの一つ一つが綺麗なら、映画は美しい。
趣は異なるがジェイク・クレネル『大阪恋泥棒』も印象に残っている。
日常面を振り返れば、関東での知人がいっぺんに増えた。
職業でいえば編輯者、弁護士から漫画家、ギャンブラー、経営者まで、
大阪や仙台や横浜にこもっていては出会えなかっただろう人々と知りあった。
このカオスとしての人間宇宙こそ、社会だ。
そのほんの一断片に触れ合うことすら困難だから、
ある種の人々はステレオタイプに陥って閉塞するわけだ。
そうではない複雑系たる生きた雑多を、面白いと思えた。
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