16.5.10

リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』

http://www.getty.edu/art/gettyguide/artObjectDetails?artobj=40905&handle=li

物語は作者がボストンでザンダーの写真作品「三人の農夫」に感銘を受けるところから始まる。
それとは無関係に、別の二つの物語が開始する。
一方は1914年5月、プロイセンのラインラント、写真の撮られた時と場所。
もう一方は現在、ボストンの八階のオフィスから同僚とパレードを見下ろすメイズ。
初めは別々に流れた物語が、次第に絡みあい、写真を軸としてやがて重なる。
ちょうど中盤あたりからのその華麗な流れを、私は今日の半日で読み終えた。

向かう舞踏会とは第一次大戦だ。
具体的には? とさらに問うと、意味は様々な様相を帯びる。
写真、総力戦、フォードに始まり、
デトロイトの終焉とコンピュータ技術への以降に終わるテクノロジー
国民意識、協商国と連合国に始まり、
移民とアメリカに終わるナショナリティ
電波、モルガン商会、ラジオ、大衆紙に始まり、
電話と空売り、粉飾決算に終わる市場型・情報型資本主義

この小説がすごいのは、単に三つの物語が交錯するだけではなく、
その都度、写真論を始めとする厖大な智識が註釈のように物語を裏打ちし、
背景や描写を豊かにしているからだ。
あと、言葉の云い間違い・聞き間違いで進行がずれることが時々あって、それも良かった。

ピンチョンの『V.』と似ていると思って読み進めていた。
細部が細かいとか、二つの主軸の物語があるとか、
一つが過去から未来へ進行し、もう一つが未来から過去へ遡行するところとか。
しかし、ピンチョンのように情報過多が大きな主題というわけではないし、
情報が「ステンシル化」されることも(あまり)ないから、比して読みやすかった。

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