云わずとしれたディストピア小説。
持っていたのになぜか敬遠していたところを、
帰阪に際してようやく読了。
瞠目すべき舞台を息を吐かせない丁寧な描写で、
たいへんに面白い小説だった。
制度の説明は、それのみに完結するのではなく
きちんと物語進行に組み入れられているし、
だからといってどちらかが疎かということはなく、
余すところなく語られていて、イメージに湧く。
新語法という認識論的な情報操作、二重思考による判断停止、歴史の改竄。
これらの徹底されたまさにディストピアな世界は、本当に嫌になる。
そしてこれらは、多かれ少なかれ政治的な事象として現にある。
オーウェル自身が後に無政府主義に走ったように、
統治という行為はすでにそうなのだ。
ただ、それが冷徹までに科学的・方法論的に確立されて硬直した状態こそ、
ディストピアなのだ、ということだ。
そうなる前に、政治はしかるべきように民主的でなければならない。
つまり、人々は政治に失望するのではなく、働きかけなければならない。
第三部、逮捕から拷問での精神的消耗は、虚実、夢うつつが混じり、
同じくディストピアを扱った映画の『未来世紀ブラジル』を思わせた。
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